「専門家に聞く働き方改革」労働時間の上限規制 まずは会社の現状を数値で把握(特定社会保険労務士 皆川雅彦氏)
[2022/3/12 茨城版]
働き方改革関連法で猶予を与えられていた建設業界だが、その猶予期間がまもなく残り2年となる。いわゆる建設業の2024年問題のうち、特に大きな変更点として労働時間の上限規制が挙げられる。これにより、残業時間の上限は、原則として月45時間、年360時間に制限される。上限規制への対応は、一朝一夕で解決できるようなものではなく、時間をかけて取り組む必要がある。特定社会保険労務士である皆川雅彦氏に、問題のポイントや解決方法などを聞いた。皆川氏は「まずは会社の現状をきっちりと数値で数値で把握することが重要。その後、優先順位をつけながら各種の課題に取り組む必要がある」と述べた。
―労働時間の上限規制について
大きな流れとしては、働き方改革を日本全体で進めていくもの。その際には、▽有給休暇の年5日取得▽残業時間の上限規制▽同一労働同一賃金──を3本柱として掲げ、19年4月1日から各種取り組みが進められている。このうち、建設業では労働時間の上限規制について、5年間の猶予が設置された状況にある。
―もし、上限規制を守らなかったら
報告義務があるわけではないが、労働災害事故の発生や労働者の申告、定例監査などで発覚する可能性が考えられる。特に労働災害では、労働時間の上限規制などの管理体制ができていなかったから、事故が起きたのではないかというロジックに繋がる。
是正勧告を受けた後、早急に対策を講じないと、企業名公表や書類送検となる。勧告後の猶予時間は約2カ月と短く、早急に対応しなければならないが、現場が混乱する恐れがある。今からでも少しずつ取り組まないといけない。
―24年の施行までまもなく残り2年となるが、初めに何から取り組めばいいのか
まずは、自分の会社の立ち位置を知ることが重要。特に建設業では時間管理の方法が、タイムカード等の打刻ではなく、業務日報によるケースが多い。さらに日報には時間の記載がないものが多く、これでは自分の会社が上限規制に引っかかるかどうかも判断できない。
―労働時間の把握はどれくらいの期間が必要か
公共事業は発注時期に波があるため、1年間を通した労働時間の把握が必要になる。法律では、完全週休2日を要求しているわけではなく、1年単位の変形労働も認めている。まずは法律をクリアするためにも、変形労働制を導入することが重要。その後、課題の整理と優先順位付けを行い、対策に取り組むことになる。
―労働時間を守るだけなら、現状が把握できればすぐにでも実現可能なのでは
確かに自力で取り組むことも可能だが、プランニングや課題解決のアプローチ方法などについて勉強するとともに、本業も並行して進めていくのは、かなり難しい。また、課題は各社ごとに異なっており、画一的な解決方法は存在しない。そのため、解決に向けた近道を知るには、専門家に相談することが効率が良い。
いままでの相談をみると、よくある課題として仕事の属人化が挙げられる。規模が小さい会社ほど、その人にしかできない仕事が割り振られていることがある。建設業では担当をしっかり割り振るため、隣の人が何をやっているのか分からない状況になる。
こうした状況にあるため、建設業では情報を共有化し、忙しい仕事を皆で応援するという意識は他の業種に比べて薄いのが現状。課題解決には単に増員するだけではなく、情報共有や後進の育成が必要になる。
また、仕事を抱え込むのは人手不足のほか、他人に任せたくない、他人と一緒にやりたくないといった理由もあり、多種多様となっている。ただし、いずれの理由でも仕事が進まないのが現実。そうした時には、会社としての仕事の仕組、文化を変える必要がある。
その際には、これまで個人に任せていた仕事へのやり方の見直しを行い、効率化と共有化など、仕事の見える化を進めなければならない。おそらく、従業員からは大きな抵抗があると思うが、トップダウンで進めていく必要がある。従業員への意識を変えることも大きな課題になる。課題は山積みだが、できることから一つひとつ取り組んでいくしかない。
こうした働き方改革については、やらされた感ではなく、新たなチャレンジと捉え、これまでの仕事のやり方を見直す機会にもなる。早期に取り組むことで、他社との差別化を図るチャンスともいえる。
◇プロフィール
皆川雅彦(みなかわ・まさひこ)=1960年生まれの62歳。社会保険労務士法人葵経営の代表。日立オフィスに加え、水戸市と神奈川県相模原市でも事務所を経営する。建設業の働き方改革についてはこれまで、建設業者から塗装や造園業などといった専門工事業者まで、幅広い相談に対応してきた実績がある。個別に相談したい者は、日立オフィス(電話0294-25-3668)まで連絡すること。
このほか、皆川氏は県社会保険労務士会の副会長や県社会保険労務士会紛争解決センターあっせん委員などの公職も兼任している。